Rady School of Managementの特色の中で、アントレプレナーシップ(起業家精神)教育に力を入れていると解説しましたが、それを体現しているのがLab to Market(L2M)です。Radyの2年間のMBAプログラムの中で2年目の秋学期、冬学期、春学期と3学期に渡って、ビジネスアイデアの創出から、仮説検証、プロトタイピング、マーケット調査などを経て、ビジネスを立ち上げるまでを様々なツール・手法を使いながら、実際に体験するハンズオン型の授業です。
L2Mでは自分のアイデアをビジネス化するプロジェクト、UCSDに在籍する研究機関の技術をビジネス化するプロジェクト、Radyの卒業生が立ち上げたスタートアップ、サンディエゴを拠点に置くスタートアップの支援をするプロジェクトなどがあり、自分の嗜好や専門などに合わせて選択することになります。また、この授業はフルタイムのMBA生だけではなく、週末コース(Flex Weekend)や夜間コース(Flex Evening)、あるいはエンジニアリング系(Jacobs School of Engineering)の学生も参加するため、ネットワークを広げるきっかけにもなります。このページではそれぞれの学期で具体的にどういったことを学ぶのか、どういったプロジェクトがあるのか、メリット・デメリットについて解説していきます。
コースの内容
冒頭で2年目の3学期に渡り開講されると書きましたが、最初の学期では、マーケティングを専門にするOn Amir教授とプロダクトデザインを専門にするMichael Meyer教授の2人の教授が、ケーススタディやグループ演習を通して、デザインシンキング(ダブルダイヤモンド)に則ったアイデア創出およびブラッシュアップのプロセスや手法について教えてくれます。具体的には、既存の製品やサービスを使った時の実体験を分析を通して、ビジネスアイデアを着想し、自分のアイデアを成功させるための前提(仮説)を洗い出し、カスタマージャーニーマップ、サービスブループリントを使って顧客の視点から製品・サービスデザインを行い、ポジショニングステートメントの作成を通して差別化ポイントを明確にし、ストーリーボードなどを使って自分のアイデアのピッチを行うということを10週間通して行なっていきます。学生は4〜5人程度でグループを組み、自分たちのアイデアをもとに進めていきます。私のグループはリモートワーカー向けのわーケーション用オフィス・設備レンタルサービスを考案し、このビジネスの検討を行いました。他のグループでは、産後ケアのサービス、学生向けのファイナンスサービス、移動型スーパーマーケットなどのアイデア検討を行なっていました。
2学期目からはAmy Nguyen-Chyung教授が担当し、プロジェクトベースへと移行していきます。まず最初に自分が参加するプロジェクトを選択します(どういったプロジェクトがあるのか、決め方は後述(具体的なプロジェクト)参照)。本学期では、半分はプロセス・手法の学習、半分はプロジェクトへの応用という構成で、リーンスタートアップのコンセプトをベースに、仮説検証、マーケットリサーチ、Go to Market戦略立案を行なっていきます。プロジェクトの特性や、フェーズによって、何を重点的にやるのかはかなり異なってくるのですが、製品やサービスが形になっていない場合は、プロトタイプやユーザーテストをやったり、ターゲット顧客やニーズ把握、デマンド調査が不十分な場合は、顧客インタビューや、アンケート、行動観察などのマーケティング調査を行なったりしながら、ビジネスが成立するかを検討していくのが2学期目のゴールです。ここで、当初のアイデアの実現性が低いと判断された場合は、ピボットするか、全く新しいアイデアに変えるかといった判断が求められます。
最後の学期では、2学期目で立てた戦略を実行し、ビジネスを立ち上げていくフェーズに入ります。パートナー企業にコンタクトしたり、サービスをローンチしてユーザー、顧客のフィードバックを分析しながら、サービスを改善したりといったまさにスタートアップの運営を行なっていきます。
具体的なプロジェクト
プロジェクトは大きく3種類あり、既存のスタートアップに参加するプロジェクト、自分もしくはクラスメートのアイデアをビジネス化するプロジェクト、大企業のコンサルティングプロジェクトです。既存のスタートアップはUCSDの研究機関発のスタートアップが多く、ライフサイエンス、バイオテック、クリーンテックなどの分野が多いのが特徴です。またRadyの卒業生が経営しているスタートアップや、サンディエゴに拠点を置くスタートアップもあります。自分もしくはクラスメートのアイデアをビジネス化するプロジェクトでは、最初の学期で検討したアイデアを具現化していく場合も多くあります。またクラスメートがすでに自分でスタートアップあるいはアイデア検討を進めている場合もあり、それに参加するという場合もあります。もちろん自分でアイデアやすでに進めているプロジェクトがあれば、それをL2Mで進めていくこともできます。もう一つは、大企業のコンサルプロジェクトで、これはL2Mというよりかは、普通のコンサルティングプロジェクトのイメージです。テーマは多岐にわたっています。メインではないので案件数としては非常に少ないです。各プロジェクト4〜5人で構成することが求められます。場合によっては3人、または6人も認められますが、人数が集まらなかった場合はプロジェクトとして成立しない、逆に多すぎると誰かが他のプロジェクトに移らないといけないということが起こります。誰が移るかについては特にルールが決まっておらず、志望度の強さ、バックグランドなどを考慮し、みんなで相談しながら決めていきます。
既存のスタートアップとしては、具体的には以下のプロジェクトがありました(毎年変わるのでご参考までに)。
- ライフサイエンス
- UCSDの薬学系の技術で、肥満を防ぐ化学物質に関するプロジェクト
- 失明の原因となるGlaucomaの診断・モニタリングをAI・ディープラーニングを使って行う技術をもつUCSD発スタートアップ
- 既存の医薬品を現在治療が難しい病気に転用するためのAIを開発するスタートアップ
- 医療テック
- 救急車の場所、現場までの時間をモニタリングするサービス
- 遠隔医療サービスを行うUCSD発スタートアップ
- これまで不可能だった重度に損傷した神経細胞を修復する装置を開発するスタートアップ
- クリーンテック
- UCSDの工学系の研究者が開発するCO2、COを燃料に変換する装置に関するプロジェクト
- 廃車となった電気自動車から蓄電池を回収し、定置用蓄電池として電力系統、需要家向けに転用する技術をもつUCSD発スタートアップ
- 環境配慮型の水産品養殖技術を持つスタートアップ
- コンシューマーサービス
- 温度を調節できる布を開発するスタートアップ
- レストランで余った食材、料理などを取引するプラットフォームをもつスタートアップ
- 人の記憶をデータベース化し、必要なタイミングで記憶を呼び戻すことができる技術をもつスタートアップ
- B2B
- データ処理を高速化する技術をもつソフトウェアスタートアップ
上記はほんの一部で、これ以外にも30ほどのプロジェクトがあります。
メリット・デメリット
L2Mの最大のメリットは起業のプロセスや、使える手法・ツールなどを実践を通して学ぶことができるという点です。教授によるメンタリングも受けられるので、サポートも充実しています。起業に興味がある、将来起業したいと考えているから必要なスキルを学んだり、経験を積みたいと考えている方にとっては非常に良い機会となると言えます。また、L2Mでいいアイデアが出た場合には卒業後スタートアップを続けることもプロジェクトによってはあるので、本気で起業したいと考えている方にとってもチャンスになると思います。
一方デメリットとしては、プロジェクトによって成果にばらつきが出るのでプロジェクトによっては期待した体験が得られないということも起こります。例えば、参加したプロジェクトのメンバーのモチベーションが低い、チームワークが悪い、スタートアップの創業者が協力的でない、忙しすぎてコミュニケーションが取れない、など様々なことが起こり得ます。実践型の授業であるが故に、みんながみんな成功するとは限らないのがL2Mの特徴です。また、選べるスタートアップや企業は毎年変わるため、例えばクリーンテックに関するプロジェクトに参加したいと思っていても、その年に該当するプロジェクトがあるとは限りません。またあったとしても、メンバーが集まらない、逆に多すぎて自分が漏れてしまうということもリスクとしてあり得ます。
L2Mを理由としてRadyを選ぶ方も多いと思いますが、この点はあらかじめ知っておいた方が良いと思います。
おわりに
今回はRadyのMBAプログラムの中でもハイライトであるL2Mについてのご紹介でした。MBAの学校選びについて考えている方にご参考になれば幸いです。



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